Ancillary Sword朗読版

アン・レッキーが


Happy Republic of Two Systems Independence Day from Lieutenant Peepsarwat.


というツイートをしていました。「二星系共和国」は4月5日(または6日)に独立したの?

 


よく分からないが独立記念日のお祝いにラドチ帝国シリーズ2「亡霊星域」をオーディブルで聞きました。
朗読はAncillary Justiceと同じくAdjoa Andoh。

ティサルワットが予想よりものすごく可愛い。
出会ったばかりの相手に恋してしまうっていくら若いとはいえ衝動的すぎるティサルワット。かわゆい。
宇宙から降ってくるセイヴァーデンもすごく良いし、SFというよりロマンスを読んでる感じがします。
歌も相変わらず良くて、「木よ魚を食べろ」の歌は聞いててあまりに可笑しくて声に出して笑ってしまった。

しかしこの小説最初に読んだとき、それほど長さがないのにステーションでスラム街を再生したり、惑星でプランテーション農園主の巨悪をあばいたり、移動が多くて忙しい。どうしてこういうくどい構成なんだろう、別々の小説でやったほうがよかったのでは?と疑問でした。

今回朗読で聞いてみて、ブレクはどこへ行っても同じことをやってるだけだと気づきました。
ステーションにいるときも惑星にいるときも不正があれば解決してるだけ。

朗読の良いところは、自分では重要でないと思って読み飛ばしてしまうところもすべて同じスピードで読んでくれるところですね。
あ、ここちゃんと読んでなかったけどそういう意味があったのか、と分かることがある。

ブレクはいまネットで流行りの言葉を使えば「わきまえない女」(AIだけど)で、ゲットーへ行けば「ここで先住民が差別されている」と言うし、農園へ行けば「ここで移民が搾取されている」と指摘する。
(そして差別構造から利益を得ている権力者に嫌われる)

軍艦AIが主役のSFなのに、戦艦同士の華やかな戦いとか宇宙のロマンとかメカメカしい解説(何て呼ぶのか分かりません)とかはなくて、社会の不正について書かれている。
改めて変わったSFだと感服しました。

人種差別や労働者の搾取や恋人によるデートDVや雇用者による性暴力や軍の上官によるハラスメント・・・さまざまな差別や暴力が描かれています。
なぜこんな差別や暴力が存在するかといえば、ラドチは帝国主義植民地主義軍国主義で家父長主義だから。つまり私たちの生きている世界だから。

軍艦AIものなのに軍や帝国をまったく美化せず、男の美学にも忖度しない小説です。宇宙をまたにかけて活躍する男たちのロマンみたいなのを期待して読んだ人(自分も読む前はそういう小説かと思っていた)はいったい失望をどう処理したのだろうか。

 

でもこの小説はディストピア小説ではないのです。描かれているのはユートピアでもディストピアでもない単なるヘル・宇宙。

主人公のブレクも英雄ではない。人間じゃないので常識がない。苦しんでいる人を助け、社会を変えようとしているだけです。常識があればそんなことしませんよね。そして当然立場をわきまえろ、お前なんか生きている価値はないと偉い人たちに非難されるのですが、ブレクはまったく忖度せず、自分の信念を貫く。ただそれだけの小説です。

 

アン・レッキーがこの小説を書いてくれたことが本当に嬉しい。

これまで長年SFファンをやってきたけど、自分のために書かれたSFと思えた作品はあまりなかった。ラドチ帝国シリーズは「これ私のためにある本だ!」と感じられた数少ない小説。ずっと心に抱きしめて大切にしたい作品です。

最終巻「星群艦隊」もオーディブルで聞きたいのですが、日本ではまだ聞けないようです。「動乱星系」も売ってもらえないので、表紙を眺めてむなしく指をくわえています。

 

 

Ancillary Sword
By: Ann Leckie
Narrated by: Adjoa Andoh
Series: Imperial Radch, Book 2
Length: 11 hrs and 44 mins
Unabridged Audiobook
Release date: 10-07-14
Language: English
Publisher: Hachette Audio