スティーブン・フライ朗読の「1984年」

オーディブルUKが会員に無料提供しているOrwell Collectionを聞いてみました。(無料ばっかり聞いててクレジットが減らない)
動物農場」と「1984年」が収録されています。まずは「1984年」から。

小説はかなり以前に読んだけれど詳細はもはや記憶の彼方。初見のように新鮮な驚きばかりです。
なぜスティーブン・フライに朗読させてみようと思ったのか疑問ですよね。彼の心地よい暖炉端を思わせる声でディストピア小説を聞いてその恐怖を味わうことができるのだろうか?

聞き始めると、やはりあまり恐ろしい感じはしなくて、主役のウィンストンは自分がどうしてこんな世界で暮らしているかよく呑み込めないまま中年になってしまった平凡なインテリのように思えます。スティーブン・フライ演じるウィンストンが一生懸命「二分間憎悪」をやってるところは微笑ましいような気がする、これはコージーディストピアという新たなジャンルかも・・・

と呑気に聞いていましたが、当然そんな牧歌的な小説ではないので、だんだん怖い展開になってくる。
ウィンストンが拷問される「4か5か」のクライマックスは痛みに叫ぶ主役と冷静な審問官の両方を演じ分けるスティーブン・フライの迫真の演技力。

オブライアンがどういう人物かつかめず、不気味で恐ろしかった。「侍女の物語」のオブフレッドとかの名前はここからヒントを得たのかな。

朗読で聞くと、説明がすごく多いように思えます。最後のアペンディクスも読み上げてくれたから余計そう感じるのかも。付録なのに30分もあった。
当時の読者はディストピア小説というものが初体験かも知れないので、作者もどういう社会なのか詳しく説明しなければという使命感があったのでしょうか。
いまディストピア小説を書くなら、監視社会とか官僚主義は書き込まなくても読者が当然読み取ってくれると思うと、ジョージ・オーウェルの功績は大きいですね。

自分が誤解していたことにも気づきました。「ビッグ・ブラザー」を「ビッグ・ブラザーズ」で独裁者が複数いるのかと思ってた。リーマン・ブラザーズとかとごっちゃにしていたようです。でもまあ「ビッグ・ブラザー」はただのシンボルでディストピアは共同運営ですよね。

それと、ウィンストンがロンドン中心部からぶらぶら徒歩で出かけたら、プロレタリアートの居住地があって、彼らはけっこう好き勝手に生きているので驚きでした。
ビッグ・ブラザーがイギリス全土をくまなく支配してるのかと思っていたら、8割以上は労働者階級で、放任されているのですね。礼はプロレタリアートに及ばずってこと?

イギリスではディストピアさえも階級差別を解消できないというところに当時の人はリアリティを感じたのでしょうか。


藤野可織の「先輩狩り」の連載を読んでいたら、政府の生殖奨励政策の宣伝担当は超可愛いアイドルで「Safe政府」の駄洒落キャッチコピーでゆるキャラ(がばたん)を配布してるところに、「世界よ、これが日本のディストピアだ」と思った。わたしたちは「1984年」からずいぶん洗練されて、JKさえも宣伝対象にするソフト・ディストピアへたどりつきました。

Orwell Collection
Animal Farm & 1984
By: George Orwell
Narrated by: Stephen Fry
Length: 16 hrs and 18 mins
Unabridged Audiobook
Categories: Literature & Fiction, Classics