宇佐美時重と大審問官

(漫画『ゴールデンカムイ』の最終話までのネタバレがあるのでご注意ください)

宇佐美がイワンを下敷きにしているとして、あの有名な「大審問官」はどの場面にあたるのか考えています。

 

札幌の娼婦連続殺人事件のところかな。なんかいろいろ高説を披露していたような(絵面が衝撃的で中身をあまり覚えていない)・・・
キスの代わりが鶴見の「一番の人」発言なのでしょうか。ってことは鶴見がアリョーシャ?


娼婦連続殺人事件を物語層で考えると、殺人に快楽を覚える犯人の捜査のため、同じくサイコパスの宇佐美が探偵役に選ばれたのでしょう。

しかし、囚人狩りも先が見えてきたところで急にアイヌとも金塊とも無関係なキリスト教の話になって、多くの読者が戸惑ったのでないかと思います。
「一読して、変だ、おかしい、なぜなのか、といったディテールに遭遇したさい」にカラマーゾフ層を導入するルールなので、試してみます。

娼婦殺しの背景には犯人の「処女懐胎であれば原罪もない」という考えがある。
この思想がイワンの「子供には罪がない」「神がいなければ、すべてが許される」と響きあっているため、イワン=宇佐美が探偵に起用されたのではないかでしょうか。(こじつけか)

 

(漫画『ゴールデンカムイ』の最終話までのネタバレがあるのでご注意ください)


宇佐美を鶴見が抱き留めるシーンにはピエタのポーズが使われて、無原罪のイメージを増幅しています。
さらに鶴見が宇佐美(画面上はキリストの位置にいる)の体の一部を食べることで「わたしの肉を食べるものはいつもわたしの内におり、またわたしもいつもその人の内にいる」というイエスの言葉を連想させる。キリスト教のイメージがふんだんに使われています。

宇佐美が教会付近を捜査して、鶴見が教会に入るエピソードの下地を作る。教会内では宇佐美からイワンを引き継いだ鶴見の「プロとコントラ」独擅場が繰り広げられる。
連続殺人事件とビール工場のカーニバル的展開から、聖堂での静かな対話劇へ。動と静の対比が見事です。

 

こんなによく考えられた構成なのに、パオパオ探偵が強烈すぎてすべてが霞んでしまう破壊的なところもすごい作品です。

宇佐美のディケンズ風のフロックコートが見れてファンには嬉しい回でもありました。裾がスワロウテイルになっているのもお洒落。鶴見が見立ててやったのかな。