ヴァージニア・ウルフっぽさとは何か

METライブビューイング2022-23 「めぐりあう時間たち」を見ました。
マイケル・カニンガムの小説『めぐりあう時間たち 三人のダロウェイ夫人』(原題:The Hours)をオペラ化した作品。

 

www.metopera.org

 

オペラになったおかげで、小説版の『めぐりあう時間たち』ではよく理解できていなかった部分の意味がはっきりしたように感じた。

三組のヒロインが全員いっぺんに舞台に出てきてくれるので、それぞれ違う悩みや喜びがあり、時代や場所が離れていても、ウルフを通じて繋がっている。それが視覚的に理解できるのでありがたい。

 

リチャードがどうしてクラリッサ・ヴォーンにあれほど追い詰められてしまったのか、というかそもそも元ネタの『ダロウェイ夫人』でどうしてクラリッサが死なず、他の登場人物が殺されてしまったのか、ああ、そういうことだったのかと一瞬だけとてもクリアになりました。がいまはまたよく分からなくなった。一瞬だけ何かがとてもはっきり理解できて、その一瞬が過ぎるとまた分からなくなる、それがわたしのウルフ体験。

 

オペラは配役も舞台装置もとても良かった。衣装も室内のインテリアも原作の雰囲気がよく出ていた。
とくにヴァージニア・ウルフ役のジョイス・ディドナートがすごくウルフっぽい!!と驚愕しました。手を首筋にやるときの動きとか、壁やテーブルに手をついてゆっくり立ち上がるところとかすごい似てる!!喋り方もそっくり!!声が超似すぎ!
と思ったのですが、考えてみればウルフが実際に動いているところなんて見たことないわけで、声は残ってるかも知れないけど聞いたことがないし。

でもこのオペラを見た人はたぶんみんな「ヴァージニア・ウルフっぽい!!」と感じたと思うので、私たちの考えるヴァージニア・ウルフっぽさってどこから来てるのかなと思いました。映画版のニコール・キッドマンはすごく良かったけど、これほど驚異的にウルフっぽくはなかった。


とても良いオペラで、オペラを映画館で見るのは初めてだけど大スクリーンだと没入感があって良かったです。

作品自体とは関係ないけど、作中でヴァージニアとレナードの会話の日本語字幕が

ヴァージニア:新作のタイトルは『ダロウェイ夫人』にするわ
レナード:『めぐりあう時間たち』って言ってたのに?

となっていて、英語ではレナードはThe Hoursと言ってるのでちょっと変な感じだった。

ウルフはThe Hoursという抽象的でそっけない仮題で執筆してた小説をMrs. Dallowayという具体的でインパクトのあるタイトルに変えて、レナードを驚かせたんですよね。『めぐりあう時間たち』だとドラマチックすぎて、レナードのセリフと合わない気がする。


小説版の邦題を『めぐりあう時間たち』にしてしまったせいで、映画でもオペラでもThe Hoursの訳語がすべて『めぐりあう時間たち』になってしまうので、最初に邦題を決める人の責任は重大だなと感じました。