Watchtower by Elizabeth Anne Lynn

読みかけで放置してあったC.J.チェリイの『色褪せた太陽三部作』を拾い上げて読んでいたら、なんか記憶と違う・・・?
手元をよくみたらエリザベス・A・リンの『アラン史略』を読んでいました。見分けがつかない。

面白かったのでそのまま勢いで読了。
日本では『アラン史略』と呼ばれていますが、原題のシリーズ名はThe Chronicles of Tornor。トーノー砦(ターナー砦かも)と呼ばれる要塞をめぐる物語。

Watchtowerは『冬の狼』というかっこいい邦題がついていますが、原題は「見張りの塔」という地味なもので、内容も地味です。
主役はTornor Keepトーノー砦の守備隊長、Ryke。近隣のCol Istorという成り上がり戦国大名みたいなのが不意打ちで攻め込んできて捕虜になってしまうところから物語は始まる。
トーノー砦の領主Athorは討ち死に、跡継ぎの王子Errelも敵の手に落ちる。

Col Istorは本邦の羽柴秀吉に似た人好きのする戦上手。Rykeに自分の部下になればErrel王子の命を助けてやると持ち掛ける。
RykeはCol Istorの腹心の部下となり、Errel王子はCol Istorの道化師として、Col Istorの晩餐のテーブルで夜ごと笑いものにされる。Rykeは愛する王子が侮辱されるさまを黙って見ているしかないのだった。
えげつない設定・・・

Watchtower(『冬の狼』)ではRykeのErrel王子に対する忠誠というには危うい執着が、第2作 The Dancers of Arun(『アランの舞人』)では兄弟間の愛を描いていた。
1970年から80年代くらいのファンタジーってこういうの多かったなと思いながらウィキペディアのエリザベス・A・リンの項目を読んでいたら

Elizabeth Lynn is an openly lesbian science fiction and fantasy writer 
Elizabeth A. Lynn Wikipedia

とあって驚きました。(ウィキペディア日本語版には言及されていない)
Watchtower(『冬の狼』)にも確かに脇役でレズビアンカップルが出てくるが、ご本人がレズビアンなのに男性同士のカップルの話を書いたのはなぜなんだろうか。
エレン・カシュナーEllen KushnerがDelia Shermanと結婚していたと知った時と同じくらい衝撃だった。女性同性愛者の作家がBLファンタジーを書くのには何か理由があるのか。なにかのメタファーなの?

 

《明日戰記》(未来戦記)

一言でいえば香港怪獣映画です。
Netflix獨家播出」だそうで、劇場公開はされなかったのでしょうか。大スクリーンで見たかった。

劉青雲と古天樂がタッグを組んで怪獣と戦う。劉嘉玲のキリっとした軍服とベレー帽。みんなが見たいと思うものをシンプルに見せる姿勢を感じました。

21世紀の地球では戦争と工業による大気汚染で人類は壊滅状態。560万人が暮らすB-16区では「天幕」を作り、空気を遮断して生き延びている。
そこへ隕石にくっついて宇宙植物「潘朵拉」(パンドラ)が飛来する。雨が降れば急速成長して人類を苦しめるパンドラだが、空気清浄の機能を備えていることが判明する(ナウシカか)。

なんやかんやで(ストーリーはよく分からなかったがアクションを楽しむ映画なので)めでたしめでたしのラストへ。
とても気楽に鑑賞できたので理由を考えてみた。
舞台はたぶん香港。登場人物は広東語のみを話す香港人。たまに英単語が混ざるけど、いまどきの映画にしては珍しく普通話の話者が登場しない。軍隊は存在している(制服はイギリスっぽい)、政党はないかあっても忠誠度は低そう。
B-16区の人口560万人というのは1980年代の香港の人口に近い。香港返還前に逆戻りしたとも言える。減った人口は大陸からの新移民なのかも知れない。
B-16区はドームで世界から隔てられたが、期せずして(かどうか分からないが)、中国からの独立を実現した。

スラムみたいなところで暮らしていても人々の表情が明るいのは大国に干渉されずに自分たちで生き方を決められるから。
決めセリフの通り“個結局係點,就係自己話事”(結末がどうなるか、それは自分が決めるのだ)。

 

《周處除三害》(「我、邪で邪を制す」)

《周處除三害》(「我、邪で邪を制す」)をNetflixで鑑賞。
中国で大ヒットしていると聞いて「周処長という正義の公務員が悪人を懲らしめる」ような内容だろうかとぼんやり予想していた。

しかし「周處」は東呉の歴史上の人物で、「三害」は「虎、蛟そして周処本人」とのこと。そんな古代の故事を台湾人はマフィアですら知っているのか。《世説新語》所収の作品で古典の授業で学ぶようだ。蛟は場所的にヨウスコウワニとかだろうか。

映画は陳桂林(阮經天)という殺し屋が主役。末期癌と診断された陳桂林は死ぬ前に指名手配されている2人のマフィアを殺して名を上げようとする。
1人目は香港仔(袁富華)。その名の通り香港出身、台中でヘアサロンを経営している。客を装って偵察に来た陳桂林に「広東語は話せますか?」。陳桂林はちょっと広東語が話せるらしい。この映画はいろんな言語が入り混じってるから字幕担当の人大変そう。

2人目は牛頭。手がかりを求めて澎湖の新興宗教施設に潜入する陳桂林。
この宗教団体の「尊者」を演じる陳以文の怪演がすごい。《陽光普照》(「ひとつの太陽」)の時もすごいと思った、いつもすごい。
ネットで「洗脳神曲」と呼ばれてる《新造的人》という宗教ソングがぐるぐる回り続けて脳から出て行かない。

三害を退治した陳桂林は望み通り名をあげる。


見終わってだいぶしてから「あ、周處は別にいたのか」と気づいた。
バイオレンス映画だが、ケアの映画でもある。医師、薬剤師、美容師、宗教家などケア労働者が多く登場する。暴力とケアはとても近いところにある。


出演者のインタビュー動画で香港仔を演じる袁富華が「アクションの時にみんな気を使ってくれて防護パッドも多めに入れてくれて」という心温まる話をしていた。国語で話し始めてもすぐ広東語になっちゃうところが香港人らしい。最後に「台湾に来る前にもカンフーの先生についたり準備してきた。もう58歳だし、若くもないし・・・」と言いかけて涙ぐんでしまい、「みなさんも年齢を理由に自分の好きなことを諦めないで夢を追い続けてほしい」と。
60近くになって香港から台湾へ来るのは大変な覚悟だったんだろうと思う。香港の映画人はいま辛い思いをしているんだろう。

youtu.be

この映画港台の興行成績はぱっとしなかったのに中国では大ヒットしたので台湾人を面白がらせているようです。政治的なことをまったく考えずに娯楽として楽しめるところが良かったのだろうか。「無名」みたいな党の宣伝ばっかり見せられたら映画が嫌いになってしまいそう。

「ブライズヘッド再訪」朗読ジェレミー・アイアンズ

Saltburnを見た後「ブライズヘッド再訪」を読みたくなって朗読版を聞きました。
何人か朗読しているのですが、ここはやはりジェレミー・アイアンズに読んでもらいたくてアイアンズ版を購入。

チャールズは地声そのままですが、セバスチャンの声がすごくセバスチャンらしい。アンソニー・ブランチも似ていた。当たり前だけどとても朗読が上手い。

セバスチャンの栄光からの転落が意外に早く、夢のような時代はすぐに終わってしまう。
後半ジュリアと恋愛してセバスチャンがすっかり忘れ去られてしまうのがなんだか納得いかなかったのですが、「愛し合っているのに宗教に阻まれて結婚できない」状況をセバスチャンでは作り出せないからだろうか?と思いました。

宗教の部分は再読してもよく分からず、臨終に額に油を塗るかどうかであんなに家族が揉めて人間関係が崩壊してしまうとか日本だと平安時代くらいまでではないかと思わされました。

チャールズがあわやブライズヘッドを相続しそうになる場面とかすっかり忘れていた。結婚によって自分のものになりかけたお屋敷に戻ってきたが気づかなかったチャールズと、結婚以外の方法で邸宅を自分のものにしたSaltburnの違いについて考えさせられた。

「三体」の発音ネットフリックス版

自分一人だけの趣味の話題です


「三体」の原作小説の英訳では「三体」がTrisolaris、「三体人」はTrisolaranと翻訳されているらしいのですが、Netflix のドラマ版では英語話者は「三体」をSanti、「三体人」をSantirenと中国語をそのまま発音していた。

英語話者のSantirenのrenの発音がバラバラで、やっぱりrenの発音は非ネイティブには難しいなと痛感しました。

「三体」のアクセントは本来の中国語だとsān tǐで高+低ですが、英語ネイティブの発音を観察すると高+下降か下降+下降が多数派のようでした。

しかし、リーアム・カニンガムさんとベネディクト・ウォンは低+高になっていて、イギリス北部アクセントっぽいSantiだったので、おお!と思った。

 

Netflix版「三体」誰が誰

你們是虫子。
虫に失礼やろうが、と思ったらラストで回収されて良かった。


ネットフリックス版「三体」のシーズン1を見終わりましたが、ドラマの誰が原作の誰に当たるのかよく分からなかったので自分用に整理してみた。原作のキャラクターにはピンインをつけました。

(ドラマ未見の方は以下の文章を読まないようお勧めします)


ウィキペディアに「三体 (2024年電視劇)」の項目ができているので参考にしました。


<オックスフォードの五人組("Oxford Five")>

■ジン・チェン(Jin Cheng):原作の程心chéng xīn。部分的に汪淼wāng miǎo。
いきなり最大のネタバレでごめんね。チェンって姓を英語話者はチャンみたいに発音してたから陳か張だと思ってた。Jinも静かなと勝手に想像してました。まさか程心とはね・・・
ジン・チェンは天才理論物理学者で、ヴェラ・イエ教授の愛弟子。教授のママとも親しく、ご飯を食べさせてもらってたらしい。出身は湖北省湖南省あたり、子供のころ洪水被害にあった。

■ソール・デュランド(Saul Durand):原作の羅輯luó jí。
この役に立たない人はどうして五人組に入ってるんだろうと不審に思いながら見てて、7話の交通事故で「えっあなたが!?」となった。すごい驚きの配役。ドラマ全体を通じてこの人にいちばん驚かされた。本人もすごく驚いていて、そうだよねーそら驚くわと思った。

■オギー・サラザール(Augustina Salazar):原作の汪淼wāng miǎo。
ナノテク起業家。ドラマ中でいちばんまともな人間性の持ち主。ナノテク極細スライサーで死者が出てしまってとても悩むところ、まともな人が一人でも出てきて救われた。

■ジャック・ルーニー(Jack Rooney):原作の胡文。
この人もどうして五人組なのかなと思ってたが、《三体III:死神永生》の登場人物だと途中で気づいてこれにもびっくり。原作では名前も覚えてない(自分が)くらいのチョイ役だった気がするが、ドラマでは大抜擢、しかし正直ウザい人物だった。もっと出番少なくて良かったのでは。トマス・モア卿を殴ったところでさらに嫌いになった。

■ウィル・ダウニング(Will Downing):原作の雲天明
急にガンになっちゃって可哀相だけど本筋と関係あるの?ただの同情エピソード導入キャラ?と思ってた。星を買うところでやっと気づいた。《三体III:死神永生》は最初のほうしか読んでないので(・・・程心が自分には無理だった・・・)、改心してちゃんと読もうと誓いました。


<地球防衛関係者>

■トマス・ウェイド(Thomas Wade):原作のトマス・ウェイド。
リーアム・カニンガムさんが常に三つ揃いのスーツ姿で素敵。《三体III:死神永生》の登場人物らしいが記憶にないので自分なりの解釈で楽しめる。

■大史( Clarence "Da" Shi):原作の史強shǐ qiáng。
最終話で突然スパダリ発揮。ダメ息子も最初の方から登場していて、この人が後年あの事件を・・・と感慨深い。
ベネディクト・ウォンマンチェスター訛り(?)が不思議な感じ。中文名が王漢斌だといま調べて初めて知った。ベネディクト・ウォンの両親は香港からアイルランド経由でマンチェスターに移民したらしい。

■ラジ・ヴァルマ(Prithviraj "Raj" Varma):原作の章北海zhāng běi hǎi。
えっ?ただのリア充担当ではなかったのか・・・驚いた。

■蟻:蟻


<地球三体協会関係者>

■葉文潔:原作の葉文潔yè wén jié。
若い頃も老年もとても良かった。

■マイク・エヴァンズ(Mike Evans):原作のマイク・エヴァンズ。
老年はジョナサン・プライスが演じていて、毎日「主と会話している」と言っていた。
ジョナサン・プライスは「2人のローマ教皇」のフランシスコ教皇役のときも「主がよく話しかけてくださる」というセリフがあったし、ゲースロではハイスパロー猊下だったし、宗教的な役が多いね。

■タチアナ(Tatiana Haas):原作の申玉菲shēn yù fēi。
申玉菲は魏成の妻。魏成って数学オタクで気管炎の人か?魏成は出てこないのかな。

■ソフォン:原作の智子zhì  zǐ。
演じているSea Shimooka(シー・シムーカ)はウィキペディアに「下岡希」と記載されてるので日系なのかな。

■従者(Follower):原作の追隨者。ドラマの7話でヴェラ・イエの少女時代と示唆されているらしい。(気づかなかった)

アイザック・ニュートン:マーク・ゲイティスが登場するといきなりBBCっぽくなるな。


文革関係者>

■葉哲泰:原作の葉哲泰yè zhé tài。
三代続く博士の家系を生み出した。

■紹琳:原作の紹琳shào lín。
葉哲泰の妻、葉文潔の母。

■ヴェラ・イエ(Vera Ye):原作の楊冬yáng dōng。
原作では葉文潔は楊衛寧と結婚していたのか(無記憶・・・)。ドラマの葉文潔は未婚のままマイク・エヴァンズの子を産んだので、娘のヴェラは母姓に従って葉を名乗っているようだ。

■唐紅静:批鬥の時に葉哲泰をベルトで殴り殺した紅衛兵

■白沐霖:「沈黙の春」を貸してくれた青年。

■楊衛寧:紅岸基地の技術者。

■雷志成:紅岸基地の政治委員。

 

「地球三体協会(Earth Three-body Organization, ETO)」の中国語表記は「地球三体組織」。この「組織」は「世界衛生組織」(World Health Organization,WHO世界保健機関)と同じ使い方ですね。

 

アン・レッキー短編集が降ってきた

キンドルオーディブルからアン・レッキーの新作Lake of Souls: The Collected Short Fiction が降ってきました。

目次だけ眺めています。
最初の8編は独立した短編で、ラドチ帝国ものが3編、レイヴン・タワーが7編ということでしょうか。

ラドチ帝国ユニバースのThe Creation and Destruction of the Worldを斜め読みしてみましたが、知ってる人物は出てこないようです。
レイヴン・タワー宇宙も丘の力と忍耐や蚊柱様は出てこなさそう。

 

Lake of Souls 
Footprints 
Hesperia and Glory 
The Endangered Camp 
Another Word for World 
The Justified
Bury the Dead 
The Sad History of the Tearless Onion

<From the Imperial Radch Universe>  
Night’s Slow Poison 
She Commands Me and I Obey 
The Creation and Destruction of the World

<From the Universe of The Raven Tower>
The God of Au 
The Nalendar 
The Snake’s Wife 
Marsh Gods 
The Unknown God 
Saving Bacon
Beloved of the Sun

 

Leckie, Ann. Lake of Souls: The Collected Short Fiction 
Orbit.

 

 

早く積読を脱出したい。