韓国ミュージカル『蘭雪(ナンソル)』配信鑑賞

まったくの偶然で『蘭雪(ナンソル)』を配信で見ました。「ウェルカム大学路2023」という企画でYou Tubeで無料公開されていて、日本語字幕までついていた。

本当に何の背景も知らず、タイトルの『蘭雪』が何を意味するかすら知らずに見たのですが、しかも韓国ミュージカル自体初めてだったのですが、とても美しく悲しく、引き込まれる舞台でした。
音楽も良かったが題材が良かった。16世紀朝鮮の女性の伝記で、このミュージカルで彼女を知ることができて本当によかった。

主役三人のうち一人が許蘭雪軒という韓国の女性詩人。李達という名詩人に師事して詩作に励んでいたが、李達は庶子のため正当に評価されない。
蘭雪も天才がありながら世に出ることもなく、彼女を理解しない男に嫁がされ、若くして病死する。

蘭雪の弟は姉と師の仲の良さに嫉妬しながらも庶子差別をなくそうと奔走するが、政敵に陥れられてしまう。

劇中で彼女の詩が歌われるのですが、漢詩だったのに驚きました。女性は漢字を読み書きできないのだと思い込んでいた。自分の無知を恥じるばかりです。
「廣寒殿白玉樓上樑文」という詩かと思って検索したけどミュージカルの歌詞とは違う詩みたい。
劇中の歌詞は「音を知るものがいないため広陵散は伝わらなかった」という内容だったような・・・

「知音を得られぬ苦しみ」がこのミュージカルのテーマの一つになっています。主役三人は苦しく短い人生ながらも、それぞれ知音を得られたのは救いだったのでしょうか。
そして、このミュージカルのおかげで、また彼女が漢字で詩作してくれたおかげで、蘭雪軒が時を超えて私の知音になってくれました。

蘭雪の刑死した弟って誰なんだろうと検索してみたら許筠だった。『洪吉童伝』の作者で朝鮮最初のキリスト者。天才一家だったんですね。

 

舞台の構成に既視感があると思いながら見ていました。あとで思えば「夢幻能」と同じ形式ですね。主人公の前に亡霊が現れ、生前の故事を語り、成仏して去っていく。とりわけチマチョゴリの女性が腕を水平に前にあげる所作が優美で能を連想させます。

 

劇中で歌われたのはこの詩のようです。

「遣興」 許蘭雪軒
梧桐生嶧陽
幾年傲寒陰
幸遇稀代工
劚取爲鳴琴
琴成彈一曲
擧世無知音
所以廣陵散
終古聲堙沈

「擧世無知音、所以廣陵散、終古聲堙沈」の部分があまりに哀しくて泣いてしまった。でも自分は文語の中国語として読んで感動したので、漢文に疎かったらこの詩の意味は分からなかったかもしれない。東アジアにおける共通の教養としての漢語についても考えさせられた。

 

youtu.be