辮髪ホームズの元ネタ《清宮情怨》

莫理斯の《香江神探福邇,字摩斯》(日本語訳『辮髪のシャーロック・ホームズ 神探福邇の事件簿』 舩山むつみ訳)(以降《福邇》と省略)の本家ホームズの元ネタを探求します。
シャーロック・ホームズの中国語版タイトルはウィキペディア台湾を参考にしています。

ーーーーネタバレしていますーーーー

■《清宮情怨》
今回の元ネタは"A Scandal in Bohemia"(『ボヘミアの醜聞』/《波希米亞醜聞》)と推理します。
どうしてスキャンダルを「情怨」としたのか分からないが、広東語だとcing1gung1cing4jyun3という発音で「チ」の音が際立つ印象があります。

■戈登將軍肖像
華笙が壁のゴードン将軍の肖像を見ていろいろ連想する場面は本家ホームズの『ボール箱』のパロディでしょう。

■金大爺/多羅郡王澂貝勒
本家のフォン・クラム伯爵/King of Bohemia ボヘミア国王。
本文中「澂貝勒」と表記されていますが、「愛新覺羅載澂」を指しているのか?多羅郡王は「皇子、宗室子、外藩得封之,和碩親王世襲者,承嗣者封多羅郡王」とWikipediaにあります。

■艾愛蓮
本家のIrene Adlerアイリーン・アドラー/艾琳·艾德勒)。

■郭諾敦律師
本家のゴドフリー・ノートン。本家ではイギリス人のようですが、《福邇》では金山唐人街の出身となっている。
祖先の出身地は廣東順德で、父の代にクーリーとしてアメリカに渡り、苦学の末立身出世を遂げる。


■金山莊
金山莊と名乗る組織はアメリカや香港に複数あったようです。
サンフランシスコが旧金山と呼ばれる事情は次巻で解説があって勉強になりました。

■當朝大臣豪門不嫁
艾愛蓮の身の上話を聞いても、権門に嫁さず、一介の華僑と結婚しようとする気持ちが分からない華笙。

「我聽到這裡,自是不明白她竟然有大清郡君不做、當朝大臣豪門不嫁,卻甘願屈身跟一個華僑私奔,但又怎敢開口相問?」---《香江神探福邇,字摩斯》


ととても素直な華笙の内心。
《福邇》の華笙は19世紀の中国人で、その時代の人間として様々な偏見を持っている。しかし物語が進むにつれ、少しづつ考えを改めていくところがとても好きです。

■人生若只如初見

納蘭性德の《木蘭花

人生若只如初見
何事秋風悲畫扇


の引用かと思われますが(陳情令の挿入歌とは関係ないだろうし)、何を暗示しているのか?

この部分は「もし知り合ったばかりのころのように親密でいられれば別れを恐れずに済むのに」という意味のようですが・・・


本家ホームズではアイリーンはノートンのどこが良くて結婚したのか説明がないのですが、《福邇》の艾愛蓮は郭諾敦がアメリ華人の地位向上と権利保護のために戦う弁護士だから好きになったのですね。きちんと自分の考えを持った女性として描かれていて良かった。
偶然かも知れませんが、登場人物の名前は金に関連するし、郭諾敦の出身は金山だしで、キンキラキンな感じのお話だった。