辮髪ホームズ2《終極決戰》

莫理斯『香江神探福邇、字摩斯2 生死決戰』読み終わりましたので、元ネタを探ってみようと思います。
(辮髪のシャーロック・ホームズ第二巻のネタバレがあります。ご注意ください)

第六話《終極決戰》
タイトルで一目瞭然ですが、元ネタは『最後の事件』。
ほぼ本家ホームズと同じストーリー。ホームズと宿敵モリアーティがライヘンバッハの滝で死闘を繰り広げ、両者とも滝壺に姿を消すという有名なあの話です。

光緒20(1894)年、広州で疫病が発生し、大陸から避難民が香港へ押し寄せる。この時の疫病とはペストだったようです。
このころ福邇は上海で金玉均暗殺事件の調査中。
華笙は妻子と鶴心を福州の実家へ疎開させ、自分は香港に残って感染者の治療に奮闘します。当時の医師の感染予防対策が詳しく記述されていて興味深い。

香港に戻った福邇は華笙に国際政治に巻き込まれ、敵につけ狙われていると告白します。そこへ当の宿敵が訪ねてくる。モリアーティ、なるほどそう来たか!と膝をたたきました、確かに何語で読んでもモリアーティ。
モリアーティ教授(ネタバレ防止のため仮称)は、福邇に決闘を申し込む。二人はライヘンバッハの滝(ネタバレ防止のため仮称)で果し合いを行うと取り決める。

ライヘンバッハの滝(仮称)の場所選択がまた良い。わざわざそこまで行って戦う理由がちゃんとあるし、2チームに分かれて現場で落ち合う必要性もある。

寒い道中インヴァネスとディアストーカーを身に着けて準備万端の福邇、華笙が内心変な服と思っているところがおかしい。
福邇は後顧の憂いのないよう鶴心の身分を奴隷から良民に変えて遺産分けしておいた、と語る。イギリスはこのころすでに奴隷制を廃止していますが、香港在住の中国人は奴隷を所有できたようです。鶴心の自称は「奴婢」なのですが、謙遜ではなく本当に奴婢だったんですね。
華笙が自分も福邇の後顧の憂いの一つなのだと悟る場面が切ない。


死闘は本家ホームズと同じ結末を迎え、華笙は福邇の残した手紙を見つける。
この手紙でついに福邇が華笙を籥瀚賢兄と字で呼ぶのです。自分の署名も愚弟摩斯と字で記してある。最初動揺していて気づかなかった。
しかし文面が文語です、読めない漢字がいっぱい・・・日本語訳は書き下し文にするのかな、候文でもいいな。しかし読めないなりに眺めていると「長路漫漫」とか「有君相伴」とか香港ポップス風の書簡だ。

 

第二巻はここで終わり。作者ご本人がネットでもうすぐ第三巻が出ると発表していたので、《福邇》版『空き家の冒険』を楽しみに待つことにします。
しかし結末を知っていてもやはりライヘンバッハの滝(仮称)の回は悲しかった。

そういえば第一話《十字血盟》で丸に十字の奇妙な四つのサインが登場したのが《終極決戰》のヒントだったのかなあ。莫理斯氏の周到な目配せに感嘆することしきりです。