スザンナ・クラークの『ピラネージ』

Piranesi by Susanna Clarkeの感想です。
ネタバレしていますのでお気をつけください。


男性の語り手の日記の形式になっています。
冒頭からいきなり奇妙なことが書いてある。

「月が第三北広間に上った時、わたしは第九回廊へ3つの潮汐の合流を見に行くところだった。これは8年に一度しか起きないことだ。」

 

ここはどこ?と思いながら読み進む。

「わたし」は彫刻がたくさん飾られた広間や回廊がたくさんある大きな館に住み、邸宅the Houseにひとりで暮らして、移動しながら調査しているらしい。
ザ・ハウスは不思議な場所で、上のほうの階は雲の中で雨が降る。「わたし」は雨水を飲んで渇きをいやす。
下の階は海の中に沈んでいて、潮汐や洪水が起こる。「わたし」は魚を釣り、海草を食べて生きている。
窓の外には太陽と月と星がある。建物の間に中庭はあるが、館の外に出ることはできないようだ。

「わたし」はザ・ハウスの美しさを崇拝し、その慈悲によって生かされていると感じている。
邸宅の描写がとても美しく、「室内のロビンソン・クルーソー」のような人生も楽しそうに思える。


The Beauty of the House is immeasurable; its Kindness infinite.

Clarke, Susanna. Piranesi . Bloomsbury Publishing.


しかし、ザ・ハウスの第二南西広間に「他者」the Otherと呼ばれる中年男がいることが読者に告げられる。「わたし」は週二回会って調査した内容を話すようだ。
「他者」は「13番目の人物」に調査を邪魔されることを恐れていて、「わたし」にも気をつけるよう忠告する。

「わたし」は記憶喪失の傾向があるらしく、日記の内容もヘンテコなことが多い。
固有名詞ではない単語が大文字で書かれているのも面食らうところ。そして数字がやたらに多く詳しいのも日記としては妙な感じがする。

次第に「他者」の正体や、ザ・ハウスがどういう場所か明らかになってくる。
謎解きの面白さもあるが、読んで印象に残るのはザ・ハウスの静けさと美しさ。「わたし」の穏やかで満たされた生活。
何度もそこへ戻りたくなるような小説だった。