『ピラネージ』と『魔術師のおい』

Piranesi by Susanna Clarkeの感想です。
ものすごくネタバレしています。

スザンナ・クラークの『ピラネージ』は複数の小説の本歌取りになっているようです。
最初に読んだとき、彫刻の並ぶ広間や、誰もいない静かで心安らぐ場所からC・S・ルイスの『魔術師のおい』を連想しました。

が、そもそもエピグラフが『魔術師のおい』なので、連想するのは当たり前。何の自慢にもなりません。

‘I am the great scholar, the magician, the adept, who is doing the experiment. Of course I need subjects to do it on.’ The Magician’s Nephew, C. S. Lewis

Clarke, Susanna. Piranesi . Bloomsbury Publishing. 

 

館の彫像の中で語り手が最も愛しているのは牧神の像。

語り手は牧神が雪の森で女の子に話しかけている夢を見る。

 

It is the Statue of a Faun, a creature half-man and half-goat, with a head of exuberant curls. He smiles slightly and presses his forefinger to his lips. I have always felt that he meant to tell me something or perhaps to warn me of something: Quiet! he seems to say. Be careful! But what danger there could possibly be I have never known. I dreamt of him once; he was standing in a snowy forest and speaking to a female child.

Clarke, Susanna. Piranesi. Bloomsbury Publishing. 

 

表紙にもなっているこの牧神はタムナスさんなのでしょうか。

 

小説の後半では「ピラネージ」が「他者」によって「館」へ送り込まれたこと、「他者」の本名がDr Valentine Andrew Ketterleyであると明らかになる。
『魔術師のおい』の伯父兼魔術師もアンドルー・ケタリーという名だったので、「他者」はアンドルーおじさんの子孫?(「他者」の父は軍人で母はスペイン人)

 

Dr Valentine Andrew Ketterley. Born 1955 in Barcelona. Brought up in Poole, Dorset. (The Ketterleys are an old Dorsetshire family.) Son of Colonel Ranulph Andrew Ketterley, soldier and occultist. Valentine

Clarke, Susanna. Piranesi . Bloomsbury Publishing. 

 


『ピラネージ』は『魔術師のおい』へのオマージュというか、後日譚なのでしょうか。
二つの作品の相似点は

・若くて健康な男が、悪い魔法使いに騙されて異世界へ送り込まれる
異世界無人の平和な場所/彫像の並ぶ広間
異世界への入り口はロンドンの民家
異世界に長くいると無気力になって帰郷の意思を失う
・魔術師のメンターは刑務所に入っていた

自分が子供のころ、最初に読んだナルニア国物語が『魔術師のおい』だったせいか、シリーズの中でこの作品の印象が最も強い。
魔術師がケチ臭い小悪党で、偉大な悪の女王に比べてチンケなところが子供心にも衝撃的で記憶に残っています。

スザンナ・クラークも自分と同じようにこのしょうもない魔術師のことが忘れられず、大人になってから小説にしたのかしらと思いました。