『聖なる証』

Netflixにおすすめされたので『聖なる証』を見た。
まったく何の事前情報もなくいきなり見たので、よく分からなかったが衝撃的だった。

原作はエマ・ドナヒューのThe Wonder。日本語訳は出ていない(と思って今検索したら4月20日に翻訳が出るようです、めでたい)。

主人公のイングランド人ナースのリブ・ライトが大飢饉の記憶も生々しいアイルランドを訪れる。彼女の仕事は教会の依頼で、何も食べずに生き続ける奇跡の少女アナ・オドネルを監視し、本当に食べずに生きているのか確認すること。
少女は地元の人々から聖人扱いされ崇められているが、誰かがこっそり食べ物を与えているに違いない。リブの厳格な監視のせいで食物を手に入れられなくなったアナはどんどん衰弱していく。教会に断食をやめさせるよう進言するリブだが、地元から聖人を出したい教会は食べ物を与える気はないようだ。

フローレンス・ピューがイングランド人と知らなかったので(アメリカ人だと思ってた)、まずそこで驚いた(自分の無知に)。そしてフローレンス・ピューの演技の上手さにまた驚愕。

しかしいくら19世紀の人たちが無知蒙昧だったとしても、何も食べずに生きられるわけないだろうと思ったが、ウィキペディアのThe Wonderページの説明に 'fasting girl'へのリンクがあり、ヴィクトリア朝には断食ガールが輩出していたらしい。怖い時代だな・・・

『聖なる証』は舞台がアイルランドで、アナの家族も近所の人たちも大飢饉の影響を受けている。そこに飢饉の元凶をつくったイングランドからナースが来て食べないよう見張るというえげつない設定も怖い。

昔のイギリス女性は長いドレスを着ていて、裾が汚れなかったのだろうかと常々疑問だったが、この映画では農地でもみんな裾を引きずっていて、当然泥まみれになって、そのまま家でも泥のついた服を着ていたのがリアルな感じだった。女性が泥炭を掘る場面もあるけど、その時も作業着に着替えたりせず、普段着で泥に入ってる。貧乏なアイルランド農民だから毎日服を洗ったりもできないし、みんな泥にまみれて生きている。

女性たちが個性的で、アナの姉はすごく頭がいいのに貧乏で学校へ行けず、でもいつも読書している(そして泥炭も掘る)。口調は皮肉っぽいけど妹への愛情も感じられる。

リブも決して恵まれた人生ではなく、夜になるとアヘンチンキで昏倒しないと眠れない。リブがアナを大切に思い、助けたいと願うようになる心の動きをフローレンス・ピューが静かな情熱で演じている。


もの寂しい暗い風景が続くが、それでもアイルランドは美しい。ラストは救いがあって良かった。