マイク・ウォーカーによるラジオドラマ。元ネタはスエトニウスの『ローマ皇帝伝』。シリーズ３の時代にはもうスエトニウスは生きていないので、たぶんマイク・ウォーカーのオリジナルですね。
7.Empress in the West
マルクス・ピアウォニウス・ウィクトリヌスMarcus Piavonius Victorinusの母ウィクトリアVictoriaが主役。
日本のWikipediaには彼女の項目がないので英語版を参照しました。（英語版にはWomen in ancient Romeという項目もあるが日本語版にはない）
演じているバーバラ・フリンBarbara Flynnはドラマ「クランフォード」にジェイミソン夫人役で出てた方。日本のWikipediaには「クランフォード」項目もない。
Victoria (c.231 – c.271), also known as Vitruvia, was a leader in the Roman breakaway realm known as the Gallic Empire in the late 3rd century. She was the mother of Victorinus, who ruled as Gallic Emperor until his assassination in 271. Afterwards, Victoria used her authority to stabilize the empire and select a successor.
もうローマ帝国本体は衰退してきて、各地で野蛮人たちが自分たちの国を作っている。
ウィクトリアは女傑だけど女は皇帝になれないので、息子ウィクトリヌスを皇帝に据える。とにかくお金持ちだったらしく、このドラマでは金で軍隊の忠誠を買ってのし上がっていた。野蛮人たちは人生をエンジョイしてて楽しそう。
ガーリック・エンパイアthe Gallic Empireって何だろうと思ったらガリア帝国 Imperium Galliarumでした。
「ガーリックってケルト人？」と思いながら聞いていたのですが、辞書を引いてみると「ガーリックGallic/ˈɡælɪk/」は「フランスの」、「ゲイリックGaelic/ˈɡeɪlɪk/」が「ゲール語の」でした。ケルトの中でも大陸のフランスあたりは「ガーリックGallic」、ブリテン島のほうは「ゲイリックGaelic」なのでしょうか。ちなみにニンニクはgarlic /ˈɡɑːlɪk/。
On the life of Victoria (Barbara Flynn) and the Gallic Empire under the rule of Postumus (Danny Webb) and her son Victorinus (Sam Troughton)
Plot
As the Roman Empire begins to fall apart, one woman sees it as an opportunity to wield the power that her gender has always denied her.Cast
Victoria....Barbara Flynn
Postumus....Danny Webb
Marius....Stephen Hogan
Galleinus....David Troughton
Victorinus....Sam Troughton
Saloninus....Nick Boulton
Gaul (Atraxis)....Tim Treloar
Polydorus/Envoy....Paul Richard Biggin
Messenger/Voice 2....Joseph Kloska
General/Voice 1/First Slave....Sam Dale
Second Slave....Emma Noakes
Centurian/Soldier/Driver....Saikat Ahamed
8.The Maker of All Things
コンスタンティヌス１世Constantine the Greatの主役回。Constantineの英語の発音はここでもコンスタンタインでした。
ローマ帝国初のキリシタン皇帝。ドラマでは敬虔なキリスト教徒だった母ヘレナの影響の大きさが強調されていた。
コンスタンティヌスの出木杉な息子クリスプスCrispusは、美しい継母ファウスタFaustaを（息子として）慕っている。
祖母ヘレナは「あの女は悪辣だから気をつけろ」と常々忠告していたが、クリスプスは聞く耳をもたない。
ある時ファウスタがクリスプスに襲われたとコンスタンティヌスに訴える。厳格なクリスチャンとしてコンスタンティヌスは息子を処刑するしかない。
このドラマではファウスタは自分の愛人を皇帝の跡継ぎにするため、キリスト教の倫理を利用して義理の息子を始末したことになっている。
結局ファウスタも成敗されてしまって野望は潰えるのだけど、処刑方法が怖すぎた。声だけだからよけい想像してしまって恐怖。
しかし一番恐ろしいのはコンスタンティヌスが父なる神に
「あなたはどんな気持ちで息子を殺したのだ？」
と問いかける場面。キリストの死とクリスプスの殺害が重ねられている。
せっかく改宗したのにあまり楽しそうじゃないコンスタンタイン。
Plot
Constantine had the strength and determination to reunite the Empire, and to give it a new state religion - Christianity.
But what sacrifices must he make when he feels threatened by his own son?Cast
Constantine....Sam Dale
Crispus....Joseph Kloska
Licinius....Mark Straker
Helena....Margot Leicester
Fausta....Christine Kavanagh
Constantius....Trevor Martin
Rufus....Struan Rodger
Arrius....Paul Richard Biggin
Athenasius....Saikat Ahamed
9.An Empire Without End
西ローマ帝国の最期の皇帝、ロムルス・アウグストゥルス（Romulus Augustulus）が主役。演じるのはトム・ヒドルストンTom Hiddleston。
隠居生活を送るロムルス・アウグストゥルスのもとをプリスクスPriscusが訪ね、しばし久闊を叙する。
そもそも西ローマ帝国って何だっけ？というレベルなのですが、ロムルス・アウグストゥルスの父フラウィウス・オレステスFlavius Orestesはハンガリーあたりの出身で、故郷がフン族のアッティラに征服されたのでアッティラの将軍となる。李陵とか蘇武みたい。
東ローマ皇帝テオドシウス2世からアッティラへの使節として歴史家プリスクスが派遣される。使節団の正体はアッティラ暗殺団だったのだが、あえなく露見して失敗。しかしオレステスの助力で使節団は許される。
このドラマでは使節団にバルバリアBarbariaという女性がいたことになっている。オレステスが使節団を救う交換条件は彼女との結婚だった。
このバルバリアの声がアジョア・アンドーAdjoa Andohでびっくりした。オレステスがバルバリアにぐいぐいプロポーズする場面が楽しい。最初怒り狂っていたバルバリアは騎馬民族では女も馬に乗れると聞いて馬賊の女になる決意をする。
アッティラは相撲観戦でエキサイティングしすぎて心臓発作を起こして死去、同じく興奮しすぎたバルバリアは産気づいて息子を産み落とす。この子が後のラストエンペラー、ロムルス。この回コメディっぽくて面白い。
オレステスはフン族のもとを去り、妻子を連れてローマ帝国へ。順調に出世するが、謀反を起こして息子ロムルスを皇帝にする。
しかしロムルス・アウグストゥルスの三日天下はすぐに終わり、僻地へ流刑となる。
ピンチで逃げる時に騎馬民族で鍛えた母の馬術が役立つ伏線回収。
トム・ヒドルストンが静かな語り口で激動の人生を振り返り、つわものたちの夢の終わりを語る。時代は移り、蛮族が主役となり、もう誰もカエサルに興味がない。だから自分も殺されなかった。
沈む夕日のような、ほのかに明るさと希望の残るラストがとても良かった。日本人好みのエンディングだと思う。鎌倉殿のサーティーンもこんな感じで穏やかに終わることを祈っています。
トムヒの声がとても聴き心地が良いので美術館の音声ガイダンスをやってほしいな。
Plot
As the Empire in the West begins to crumble before the forces of Atilla the Hun, it is left to an unlikely coalition of kingmakers to select the last Roman Emperor. Can Romulus Augustus survive?Cast
Romulus....Tom Hiddleston
Priscus....David Collings
Barbaria....Adjoa Andoh
Emperor Leo....George Baker
Maximinus....Sam Dale
Attila....Victor Sobchak
Orestes....Mark Straker
Odo....Joseph Kloska
Ricimer....Christian Rodska
分からない分からないと思いながらも調べて聞くと知識も増えて楽しいリスニングでした。
キャスティングが豪華だった。
