Translation Stateの主人公は3人


アン・レッキーの小説Translation Stateの視点人物は3人でした。

1.エネー(Enae):名家の跡継ぎ。お家騒動のすえ、外交任務という名目で体よく故郷を追い払われる。ミッションは数百年前に失踪した人物を探すこと。本当に逃亡者を探す必要はなく、経費で豪華な旅行を楽しめばいい仕事だが、ヒマを持て余したエネーは真面目に仕事に取り組んでしまう。ジェンダーはsie。

2.リート(Reet):ステーションの配管工。シャトルの中で発見された宇宙の孤児。遺伝子解析では身内がまったく見つからなかった。愛情深い養親に育てられる。幼いころから人間をバラバラにして食べる欲望にとりつかれている。単調な毎日の楽しみは Pirate Exiles of the Death Moonsというドラマを見ることだけ。
あるとき「ヒキプの同胞団」とかいうカルト団体みたいなのがリートに接触してくる。彼らはリートこそが失われたヒキピ帝国の暴君の末裔、同胞団の指導者だと主張する。ジェンダーはhe。

3.クヴェン(Qven):プレスジャーの通訳士の幼生。ジェンダーは最初はthey。


エネーとリートは三人称視点、クヴェンは一人称視点で、視点人物が交代しつつストーリーが進む。

プレスジャーの通訳士は人間の肉体を使ってプレスジャーが培養(?)か遺伝子改変(?)して作った人間ともプレスジャーともぜんぜん違う成長過程をたどる生物のようです。
ゼイアトが言ってたとおり幼いころは仲間を共食いしながら育つらしく、ある程度まで大きくなったら生き残った幼生は学校のようなところで言語(ラドチ語)と人間のマナー(ラドチのマナー)を仕込まれる。
この学校が不気味なところで、幼生たちは近い将来自分たちの身体になにか重大なことが起こると察知しつつも、それがどんなことが分からない。カズオ・イシグロの「わたしを離さないで」のような不穏な雰囲気。クヴェンは将来を恐れるあまり通訳士学校を逃げ出そうと決心するが・・・


3人の視点人物それぞれの人生の悩みを前景に、背景ではアンシラリー・シリーズから引き続き、AIはSignificant Speciesなのか、プレスジャーとの条約に加盟できるのかについてコンクラーベが進んでいることが分かります。ラドチ帝国が探している逃亡者の正体はプレスジャーの通訳士で、その存在がコンクラーベの結果を左右しかねないことも示唆されます。

自分では「あたしなんてドジで何もできない」と昔の少女マンガのヒロインのように感じていたエネーですが、実際は有能なうえに運も良く、逃亡したプレスジャーの通訳士の行方をあっさり突き止めてしまいます。
条約にかかわる種族たちが善後策を講じるため集まってくるところからが今回のメインイベント。

機械に憑依したゲック、人間に負い目を感じているルルルルル、すべての種族からとても嫌われている尊大なラドチの大使。彼女の家名を知ると上から目線なのも仕方ないかと思わされる。それに本人なりに真剣に仕事に取り組んでるんだし(ラドチャーイに甘い読者)。
そしてラドチ艦船のAIもオブザーバーとして参加。お久しぶり、元気でしたか。


読み終わって、いろいろな読み方のできる作品だと感じました。
ジェンダー選択の話でもあり、種族選択の話でもあり、アンシラリーを使わない戦艦AI生存ソリューションの提案でもあり、そして・・・え、これラブコメ?という驚きもあり。前作『動乱星系』(Provenance)もラブコメだったしな・・・ラドチ帝国シリーズもある意味ロマンチックコメディだったのかも。

朗読はいつも通りアッジョア・アンドーで素晴らしいです。クヴェンが可愛い。しかし歌が一曲しかないのは寂しかった。

 

翻訳が早く出てほしい。レイヴン・タワーも早く出してほしい。