宇佐美時重とスメルジャコフ(『ゴールデンカムイ』ネタバレあり)

(漫画『ゴールデンカムイ』の最終話までのネタバレがあるのでご注意ください)

カラマーゾフの兄弟』の英語版朗読(Constance Garnett訳 Constantine Gregory朗読)を聞いているとスメルジャコフが健気で愛らしく、イワンに

“I was afraid you’d go away to Moscow; Tchermashnya is nearer, anyway.”
とか
“That was simply out of affection and my sincere devotion to you”
などと言ったりするのです。

しかもこの英語朗読版のスメルジャコフはアイルランド訛りで一萌万倍日。
イワンにだけ訛ってるスメルジャコフ可愛い、鶴見と越後弁でおしゃべりする時の宇佐美ってこんな感じかしらと考えてみると、鶴見に甘える宇佐美はスメルジャコフっぽいなあと思えてきて比べてみました。(ただしスメルジャコフは英語版)

■スメルジャコフ(パーヴェル・フョードロウィチ)
カラマーゾフの兄弟のうち一人だけ階級が低い
・イワンの「チェルマシニャーに行く」という言葉を「自分が留守の間に親父を殺せ」という指示と受け取って殺人を実行
・イワンを崇拝している
・イワンの自己欺瞞を見抜いている
・イワンへの最後の呼びかけが
“Ivan Fyodorovitch!…Good‐by!”
 それまでsirって呼びかけてたのに突然の父称でドキッとしました*

(漫画『ゴールデンカムイ』の最終話までのネタバレがあるのでご注意ください)


■宇佐美時重
・鶴見ボーイズの名門の子息に比べて農民出身で階級が低い、尾形に見抜かれるほどコンプレックスになっている
・鶴見の「ここで(柔道の練習試合を)やりなさい」という言葉を「ここで試合の相手を殺せ」という指示と受け取って殺人を実行
・鶴見の嘘を見抜いている
・鶴見を崇拝している
・鶴見への最後の呼びかけが「篤四郎さん」


宇佐美と尾形はどちらもスメルジャコフ、というかダブルキャストで入れ替わりながら一つの役を演じてたのかと思えてきました。
宇佐美が死んだあと、彼の中のスメルジャコフが尾形に移り、イワンが鶴見に入ったのではないでしょうか。
鶴見は嘘でも気にせず慕ってくれる宇佐美だけ見ていたら幸せになれたかも知れないのに。30巻の月島のあとでは宇佐美の健気な一途さが恋しい。

 

これまで理解不能の気持ち悪い人物としか思っていなかったスメルジャコフを可愛いと思う日が来るとは驚きです。
ゴールデンカムイ』を理解するために『カラマーゾフの兄弟』を読んでいたのに、『ゴールデンカムイ』のおかげで『カラマーゾフの兄弟』の解釈が深くなるという思いがけない結果になりました。


イワンが聞いてカッとなって百姓を殴り倒したペテルブルグに行く歌は英語版では

Ach, Vanka’s gone to Petersburg; I won’t wait till he comes back,

イワンの愛称ヴァンカなのか・・・可愛い・・・スメルジャコフの愛称はパーシャらしい


*が、読み直してみたらそれまでもけっこう父称で呼んでた。でも英語版の朗読はスメルジャコフからイワンへのセリフはほとんど“…, sir“で終わってるんですよねー。小説にはない時も律義にsirをつけるスメルジャコフ。でもアイルランドアクセントで上昇調なので日本語の「○○なんでさ~」って言う時のカジュアルな口調にも似ている、とにかく可愛いスメルジャコフ。