マーダーボットダイアリー #6 Fugitive Telemetry

マーダーボットダイアリーの第6作目Fugitive Telemetryをキンドルオーディブルで楽しみました。
できるだけネタばれしないように感想を書きます。(でも設定だけでネタバレだけど)


マーダーボットはドクター・メンサーの後見のもとプリザベーション・ステーションにいます。
警備コンサルタントとしてステーション・セキュリティと仕事をするはずが、警戒されてなかなか仕事をさせてもらえません。

そこへステーションの通路で死体が発見されたとの情報が。
グレイ・クリスが放った新たな刺客なのか?(そして任務中に死んじゃった?)
マーダーボットは(ドクター・メンサーの強硬な要望で)捜査チームに加えてもらえたものの、プリザベーションの捜査官たちと馬があわず苦労する。

ステーション・セキュリティとの協力条件が「システムをハッキングしないこと」なので、得意技を封じられたマーダーボットは地道に足で聞き込み捜査を始める。

相変わらず明るくて人懐こくておしゃべりなラッティと人の気持ちがまったく分からないが有能なグラシンが捜査を手伝ってくれる。
(ラッティとグラシンは一緒にランチする仲のようだがどんな話をするのだろうか。ラッティが一方的に喋るだけか?)

ステーションで働く自由ロボットたちも味方してくれて捜査はわりとサクサク進みます。
表紙の子はバーリンというドワーフみたいな名前の港湾ロボットで、でかい図体のわりに箸より重いものは持たない上品なロボット。

当初はグレイ・クリスの干渉が疑われたが、事件は意外な展開を見せる・・・

ラストはすっごくかっこいい音楽とともにすごくかっこいいロゴが二段重ねでばーんと出てきそうなめっちゃかっこいい終わり方でした。

朗読はますます役にはまってとても聞きやすい。


新自由主義からの逃走
コーポレート・リムとプリザベーション・ステーションの関係についてはこれまでも少しずつ説明されてきましたが、前作と今作でかなり作者マーサ・ウェルズの社会観がはっきりしてきました。

資本主義が行きつくところまで行ってしまったコーポレート・リムにはおそらく人権というものがなく、労働者は長期間の労働契約を結び(ときには子供や孫の世代にも及ぶほどの長期間)奴隷のように働かされる。
ロボットや警備ユニットは使い捨ての機械として扱われる。
これまで悪役上司に女性が多かったのは、新自由主義のもとではマギー・サッチャーみたいな女が繫栄する恐怖を表しているのでは。

いっぽうプリザベーション・ステーションでは生涯拘束するような労働契約は結ぶことができない。ロボットも人権を認められ、フリー・ボットとして自分の意志で仕事を選び、いきいきと働いている。
食料・住居・教育は誰でも無償で受け取ることができる。北欧型の福祉社会がさらに発展したような社会になっている。
こちらもリーダーには女性が多いが、有能と思いやりを兼ね備えた女が出世する希望あふれる世界。

女が書いた女のためのユートピア小説って気がしてきた。「侍女の物語」の逆バージョンっていうか、「侍女の物語」にならないために女はどうすべきか考えさせられる小説。


■難民と奴隷
今回読んでいて「うわ」と思ったのが難民と奴隷の扱い。
未来SFなのに今の私たちの生きている社会と同じことが起きていてショックだった。
このまま資本主義が暴走するとこういう未来になるんかなー。
アン・レッキーのラドチ帝国シリーズも奴隷労働がテーマだったが、アメリカのSFでは旬の素材なのだろうか。


■働かざるロボット食うべからず
しかしプリザベーション・ステーションで気になるのは、マーダーボットも言ってるけど「一日中ぼんやりとドラマ見てるだけのロボットって存在するのかな」ってことです。
ロボットも人間もみんな適材適所、興味のある仕事を生き生きとこなしていますが、全員労働社会なのかな?
もちろん事情があって(病気とか障碍があるとかで)働けない時は社会全体が面倒を見てくれるんだろうと思うけど、そうではなくただただ怠け者なだけの人間やロボットも存在を許されるんだろうか?