月島基とドミートリー・カラマーゾフ(『ゴールデンカムイ』ネタバレあり)

(漫画『ゴールデンカムイ』の最終話までのネタバレがあるのでご注意ください)


鶴見篤四郎の部下のうち「愛です」と表現される四人、月島・宇佐美・尾形・鯉登と『カラマーゾフの兄弟』の関連を探ります。
この四人にチーム名があるのか分からないので、ひとまず「鶴見ボーイズ」と呼ぶこととしました。(他に名称あるのかな)

今回は月島基とドミートリー・カラマーゾフの長男対決。

似ている部分を箇条書きにしました。大きく違うところには下線を引いています。

 

■ドミートリー・カラマーゾフ
・フョードル・カラマーゾフの長男
・父は評判が悪い
・ドミートリー本人も「とくにこれという理由もなく人殺しをする人」との評判がある
父とグルーシェニカという妖艶な女性を取り合っていた
・父を殺そうとする
・老使用人グリゴーリーの頭を殴って出血・気絶させる
実際には父を殺していないにもかかわらず投獄される
無実だが裁判で有罪となりシベリアへ流刑
・脱獄し、グルーシェニカと駆け落ちする計画がある(実行されたかどうか不明)

 

(漫画『ゴールデンカムイ』の最終話までのネタバレがあるのでご注意ください)

 

■月島基
・鶴見ボーイズのうち一番年上
・父は評判が悪く殺人者との噂がある
・月島基本人も乱暴者で「悪童」と呼ばれていた
いご草ちゃんという美しい女性と恋仲だった
・父を殺そうとする
・父の頭を殴って出血・気絶させる
父を死に至らしめて投獄される
死刑が確定していたが、鶴見が手を回して無罪となる
日清戦争が終わったらいご草ちゃんと駆け落ちする予定だった(実現せず)

 

獄中の月島が犯行について供述する場面から過去エピソードが始まるわけですが、「日清戦争から帰ってきたら婚約者が失踪していた」→「父が自分の戦死の噂を流していた」→「これまでの恨みが爆発して父を殺してしまった」という自供があまりに飛躍が大きく、少年漫画の登場人物ってこんなものなの?と困惑しました。

しかし、月島のキャラクターにドミートリーが投影されていと考えると月島の行動が理解しやすくなると思います。
ドミートリーは父親とグルーシェニカという女性をめぐってライバル関係にあった。
漫画には描かれていませんが、月島の父親もいご草ちゃんに手を出そうとしていたのではないでしょうか。月島は父がいご草ちゃんに関係を強要するため自分が戦死した噂を流したと推測し、怒りを抑えられなくなったのでしょう。
このあと鶴見も「月島の父がいご草ちゃんを殺した(殺す前に関係を持ったことが示唆されている)」という工作をしています。

カラマーゾフの兄弟』との最大の相違は、ドミートリーが実刑になったのに対し、月島は鶴見の工作で無罪放免となり、父殺しの罪を償うことがなかった点でしょう。
鶴見は「あの父親にお前を失う価値はない」などと言っていましたが、それは裁判所が決めることで鶴見に法を超えた決定をする権限はないはず。

ここはドストエフスキー本人の伝記事項が投影されているのではと思います。ドストエフスキーは皇帝暗殺に関わる思想犯として死刑判決を受けますが、処刑直前に恩赦によって減刑され、シベリア流刑となっています。

月島も鶴見の(過剰にドラマチックな)恩赦で死刑を免れたと言えるでしょう。
このあと鶴見は現世の法を超えた存在として、月島の敬愛と忠誠を一身に受けることになる。