(漫画『ゴールデンカムイ』の最終話までのネタバレがあるのでご注意ください)
光文社古典新訳文庫の『カラマーゾフの兄弟』には訳者・亀山郁夫氏の「解題」がついています。
そこには自分が『ゴールデンカムイ』を読んで悩んでたことがそのまま書いてあって驚きました。
「ここで「物語層」と呼ぶ最下層が、小説全体を駆動させていく物語レベル(筋書き、心理的なメロドラマ)の層であるなら、最上層の「象徴層」はある意味で、少しむずかしくなるが、形而上的な、「ドラマ化された世界観」とでも呼ぶべき層である。そしていま、訳者が「自伝層」と呼ぶところの中間部とは、象徴層とも物語層とも異なる次元のドラマを形作る部分、作者=ドストエフスキーが、みずからの個人的な体験をひそかに露出される部分と考えていただければ幸いである。もっともこれは、ドストエフスキーの伝記について何ひとつ知識を持たない読者にとって、およそ無縁の層だと言うこともできるのだが・・・
しかし逆に読者は、一読して、変だ、おかしい、なぜなのか、といったディテールに遭遇したさい、いちおうこの「自伝層」を疑ってみるのもよい。」
そして図が付されています。
象徴層
↓
自伝層
↑
物語層
ああ、これが自分が『ゴールデンカムイ』鶴見チームで理解できずに苦しんでいた部分の鍵だったんだなあ。
『ゴールデンカムイ』の場合は「自伝層」に作者本人の体験(北海道出身、祖先が屯田兵など)があるのでしょう。
ただ作者の「自伝層」は同時代の読者には知りえないことなのでひとまず置いておいて、それとは別にもう一つ「カラマーゾフの兄弟の伝記層」と呼べるものが挟まっていると考えます。「ドストエフスキー層」と呼んでもいいかも。
(漫画『ゴールデンカムイ』の最終話までのネタバレがあるのでご注意ください)
「解題」にならって図式化してみます。
象徴層
(父殺し、兄弟殺し、悪い神、呪われた黄金)
↓
カラマーゾフの兄弟の伝記層
(ロシア、四人兄弟の連帯による父殺し、長老への傾倒、第二部への布石、皇帝殺し)
↑
物語層
(北海道、金塊探し、少数民族の自決、旧幕臣の明治政府からの独立)
この「カラマーゾフの兄弟の伝記層」が『ゴールデンカムイ』の鶴見チームとどう関連しているか、自分が「一読して、変だ、おかしい、なぜなのか、といったディテールに遭遇したさい」を思い出しながら引き続き考えてみます。