月島基と不信のトマス(『ゴールデンカムイ』ネタバレあり)

(漫画『ゴールデンカムイ』の最終話までのネタバレがあるのでご注意ください)

死刑をまぬがれた月島は鶴見の部下となり、日露戦争に従軍する。戦場で偶然出会った同郷の兵士から「お前の父の家からいご草ちゃんの遺体が発見された」と聞かされ、鶴見に騙されていたと知る。

鶴見に救われた月島が騙されていたと気づいて真相を聞き出し釈明を聞いて再び信じる、しかし後にそれも嘘だったのではと疑うようになる。読者もどう受け止めたらいいか分からなくなる関係の始まりです。

月島は奉天で鶴見を問い詰めようとするが、砲撃によって中断される。
担架で運ばれ「生きているか?」と聞かれた月島は「わかりません」と答える。生きているかどうかわからないというより、鶴見を信じているかどうかわからないという意味に思えました。

この攻撃で鶴見は脳を吹っ飛ばされ、月島も腹部に大きな傷が残る。
月島は共に重傷を負い、死からよみがえった鶴見を信じようと決めます。この場面の月島はキリストの傷に手を入れるまで復活を信じなかった使徒トマスを想起させる。

などと思いながら『カラマーゾフの兄弟』を読むと、冒頭から使徒トマスの名前が登場してシンクロぶりに驚きました。

「トマスが復活を信じたのは、ただ信じたいと願ったからにほかならず、あるいは「見るまでは信じない」と口にしたときすでに、心の奥底では復活を確認していたのだろう」

第一部 第一篇 ある家族の物語
カラマーゾフの兄弟1』
ドストエフスキー/亀山 郁夫翻訳(光文社古典新訳文庫

 

この後も月島は「信じたい」と願い、鶴見への信仰と不信に揺れ動いて苦悩する。騙すなら騙し通してやればいいのに、なぜかチラチラと種明かししちゃう鶴見は緊張した関係でなければ満足を得られない人間だったのでしょうか。

 

カラマーゾフでは終盤のイワンの悪魔のあたりでもトマスが出てきてシンクロしてるなーと感心しました。